日本視覚障害囲碁普及会の歩み
●当会設立の経緯 視覚障害者に19×19マスの碁盤は広すぎる 1991年、私(現当会事務局の宮野氏)は企画制作会社を経営している当時、Y新聞社で一般(晴眼者)の方の囲碁普及支援の企画を委託され、外部スタッフとして担当しているときに、日本はもとより外国でも視覚障害の方が囲碁をされていないことを知り、また囲碁教室や囲碁大会などに視覚障害の方が参加されておられないことが気になり、仕事とは別にプライベートで大阪府立盲学校を訪問。 学校の先生が、倉庫に仕舞ってあった、19×19マスの差込式の視覚障害者用の囲碁盤を持ってこられ、「、生徒さんには広すぎて、誰も出来ませんでした。視覚障害の方には無理かも知れません、」と言われ、諦めかけた時に、先生が「囲碁が出来る凄い方が二人おられるので紹介します。全盲の方で当時日本ライトハウス評議員の二村晃アマ六段と当時大阪市立盲学校の中村功先生アマ4段です。」と住所を教えていただき、お会いすることに成りました。 二村さんは「少し見えるときは19×19マスの囲碁盤は出来ましたが、それでも3〜4段くらいの棋力でしか出来ません。それに打つのに長い時間がかかったり間違ったりしますので、疲れます。相手も疲れますし、6段なのに3〜4段くらいのハンデ対局(お互いの心のズレ)などで、打つ方がおられなくなりました。視覚障害者には19路盤は広すぎますね。 九路碁は入門版でなく、囲碁の原型(基本)として行っていた史実 囲碁の歴史3000年のなかで、時を経て9路(紀元前)→17路(紀元前後)→19路(紀元後→さらに21路盤へと広げるが,時間が19路の倍以上かかるので、限界、諦める)が行われ、中国が領土を広げるのに呼応するように碁盤も拡大、五感のうち視覚から知識・情報の80%を得る晴眼者の囲碁として定着。 しかしこの拡大した囲碁盤の世界が、推定囲碁人口3800万(世界の囲碁人口分布:日本棋院)の9割が中国(2000万)・韓国(900万)・日本(500万)の3カ国に普及が偏り、また視覚障害者が出来ない要因ではないか。 9路碁は19路囲碁の入門版ではなく、歴史的に囲碁の原型(基本)として、9路碁を長い間やっていた史実もあり、晴眼者は9路でも19路でも自分にあった幅広い対応が出来るのでは。 世界で一番行われている競技人口5億人のチェスやオセロ、日本・中国・韓国の将棋は8〜9マスで、この広さは囲碁の九路盤でもあり、人間に一番あっているのではないか。 陸上では、最後の勝負時前に途中で相手の様子を見て、持久力や余力が残っているかを見極めるため、ついてこれるか仕掛けたり後ろについたりして、駆け引きを行う長距離(マラソン)で力を発揮する選手がいます。長距離は広い19路囲碁の布石に似ています。また持久力の駆け引きではなく、十秒前後の最速を競うために、スタートの瞬発力やキック力、腕の振り方、加速力など練習で鍛えあげ、人間の全力を出し切ることで勝負する、短距離の100m・200mで素晴らしい走りをする選手もいます。短距離の瞬発力などは9路碁の研ぎ澄まされた勝負の一手に似ている。 *現代数学10進法の基本は人間の手と足の10本の指を示し、誰でも慣れ親しんでいる数であり、9×9マスは身体に備わった覚えられる広さを表している。 九路盤は視覚障害者に出来る可能性 当時読売TVで、ミニ碁一番勝負という囲碁番組があり、九路盤でのプロの凄みのある対局が評判を呼んでおりましたので、私はこのとき閃きました。「九路盤だったら、視覚障害者に囲碁が出来る可能性がある」、と。 晴眼者、身体・聴覚障害者はもとより、失明されても心眼で誰とも互角に対局でき、それに重度の障害の方や高齢者で初心者でも覚えられ,楽しめる広さの9路碁の世界で、”凄みのある鋭い勝負の一手”に囲碁の潜在力を見出し、力を発揮する多くの棋士・選手や愛好家に受け入れられ、世界で普及して行くのでは。このように幅広い対応ができるのが囲碁の魅力・長所では。 早速二村さんに相談させていただき、「9路囲碁は可能性があるよ、」と。また大阪市立盲学校の中村先生は「完全に見えなくなってから諦めていましたが、九路盤でしたら心眼で把握出来そうだ。囲碁盤が出来たら学校で囲碁クラブを作ります」。 それから、私はボランティアとして視覚障害の方が出来る囲碁盤「九路盤」の開発に独自に取り掛かり、試作・改良(自費)を繰り返しました。 ●オリジナル九路碁盤の開発・製作 1992年、囲碁盤を9×9マスのミニ碁盤「九路盤」にし、視覚障害者が白、黒の碁石に触って判別できるように、凹凸を付けた碁石を採用し、碁盤の線は視覚障害の方が触って分かるように,浮き出した凸線で繋がっており、かつ碁石がはずれないように磁石で吸着、さらに交点に凹点を作り、嵌め込み式にすることで、外れにくく、スムーズに打てる工夫をした九路盤を、当会事務局(宮野文男氏創作・試作・製作)で発足前1年間掛け、開発・製作致しました。 視覚障害者の支援団体である日本ライトハウスにも相談、囲碁有段者で点字の日本のエキスパートである、元日本ライトハウス加藤俊和所長に碁盤の製作の現場に同行して頂き、視覚障害の方が打ちやすいかどうかを見て最終チェックを行い、「把握できる」「いける」、と賛同され、また支援を惜しまないことを力強く言ってくださいました。 九路盤は心眼でできる さらに完成した九路の囲碁盤を全盲の二村氏、中村先生にやっていただき、「打った碁石の棋譜を読み上げ、触ってお互いに位置を確認する事で、イメージを高められ、心眼で出来る」「やりやすい」と太鼓判を頂き、視覚障害の方の囲碁普及に取り掛かりました。 *当会の囲碁盤製作には、当会幹事で囲碁有段者でもある、点字の日本のエキスパート、元日本ライトハウス所長:加藤俊和氏、同じく当会顧問で全盲の囲碁有段者でもある、元日本ライトハウス評議員:二村晃氏と元大阪市立盲学校の中村功先生、同幹事の元関西学生囲碁連盟・代表幹事の松村政樹氏等の協力・支援の上に作られました。 ●普及会の発足 1993年10月に視覚障害者の囲碁支援のボランティ団体「日本視覚障害囲碁普及会」が発足しました。九路盤であれば視力障害を持つ人も晴眼者と互角に戦え、囲碁を楽しめるのではないかという発想に基づき、囲碁愛好家やプロ棋士有志、関西学生囲碁連盟の学生有志を役員として設立しました。 ●日本初の和文・英文の囲碁点字テキスト制作・・・・日本ライトハウス さらに大阪市鶴見区の社会福祉法人「日本ライトハウス」の加藤俊和所長が囲碁入門書の和文点字テキストを作成致しました。それを最初に囲碁有段者の指導ボランティア・福田勝博氏に英訳して頂き、日本以外に海外の方にも読めるように、日本(世界)初の点字の和文と英字版の囲碁テキストが完成。当会のHPから無料で和文、英文(英語サイトから)ともダウンロードして使用できます。 ●大阪府盲で囲碁指導開始 1994年1月、大阪市住吉区の大阪府立盲学校に囲碁クラブが設立され、週1回の囲碁教室が開かれ、大阪大学、神戸大学、京都大、立命館大、東大、御茶ノ水女子大、大阪市立大の囲碁部の学生ボランティアにより、各地の盲学校の生徒相手に囲碁指導を開始しました。 学生ボランティア5名がアマ囲碁日本一・学生チャンピオン 当時の囲碁ボランティアを行っていた神戸大の多賀文吾氏、京都大の木下暢暁氏、東大の田中伸拓氏はアマの頂点である日本アマ囲碁名人になり、神戸大の岡本洋氏、立命館大の古屋正大氏は元学生囲碁チャンピオンです。また当時の関西学生囲碁連盟代表幹事で、各大学の学生ボランティアを紹介していただいた大阪大の松村政樹氏は、現在大阪商業大学教授で、しかもアミューズメント研究所の副所長として囲碁の研究をされております。将来、学生ボランティアや盲学校の卒業生が視覚障害者の囲碁を必ず背負って行ってくれるものと確信しております。 ●普及会の発展 ●第1回全国囲碁大会 ●世界初の視覚障害者用音声囲碁対局ソフト「卓ちゃん」完成 1997年、元島根県立旭中学の田渕先生にお願いし、パソコンで視覚障害の方に囲碁が出来るよう、打った位置を音声で知らせ、カーソルで希望の位置に打てるよう工夫した、世界初の音声囲碁対局ソフト「卓ちゃん」が完成いたしました。 ●感謝状の贈呈を受ける ●第2回全国囲碁大会・・・・日本初の音声・映像通信囲碁対局実現(NTTの技術結集) のご好意により、ホームページの記載ページの一部を転載したものです。
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